Blogs

Ethnic Children's Day - お知らせ

補習校は、2011年度チルドレンズデーにも参加しました。 
幼稚部はパレードに参加し、ステージでは中学生男子が居合道のデモンストレーションを、それから小学生高学年・中学生女子が花笠音頭を披露しました。そのときの様子をビデオでご覧下さい。

 

次の日の朝、算数大先生が子どもたちをつれて王女さまの勉強室に入っていくと、王女さまはもう席に着いていました。

 算数大先生は、「おや、なんとめずらしい。いつも遅刻ばかりしている王女さまが、先生より先に教室に来て、静かに席に着いていらっしゃるとは。いったい王女さまは、どうなさったのか・・・」と思いましたが、それは言わないでおいたほうがよかろうと思いました。それに、きょうは、そんなことよりもっと大事なおねがいを王女さまにしなければなりませんでした。

「王女さま、たいへん申し上げにくいことでございますが、本日もまた、この王女さまのお勉強室をお借りして、子どもたちに勉強をさせとうございますが、いかがでございましょうか。」

 算数大先生は、えんりょしながら王女さまにたずねました。もし王女さまにことわられたら、いったいどうしたらよかろうか、と心配しながらたずねたのでした。けれども王女さまからは、きげんのよい返事がかえってきました。

「ええ、けっこうよ。」

 算数大先生は、ほっと胸をなでおろしました。

「これは王女さまのご親切なおことば。ありがとうございます。

 その上にもうひとつ、たいへんあつかましいお願いでございますが、本日もまた王女さまに、子どもたちの先生になっていただけませんでしょうか。」

「そらきた」と、王女さまは言ったでしょうか。

 いいえ。王女さまは、「あら、わたしは、はじめからそのつもりよ」と言いました。

「さあ、おまえたち、わたしが出しておいた宿題、やってきたでしょうね。」

「しーん。」

「おや、わたしが出しておいた宿題を、だれもやってこなかったというの。そんなことって、あるはずないわ。ひとりぐらいは、やってきたでしょう。さあ、宿題をやってきたひと。」

「しーん。」

「まあ、何ということ。あんなかんたんな宿題が、できないはずないわ。おまえたち、みんな・・・」

 王女さまが言いかけると、算数大先生があわてて前に出てきました。

「あわわわ、王女さま、それはなりません。むち打ちの刑も、ばけつを持って立っていなさいの刑も、そのほかどんな刑も、子どもを相手に、刑などなさってはなりません。さあ、子どもたち、宿題ができていないわけを、王女さまにちゃんと説明しなさい。わけがわかれば、王女さまはおまえさんたちに罰をあたえたりはなさらないから、しっかりとご説明しなさい。」

 すると、ひとりの女の子が進み出て言いました。

「わたしたちがだれも宿題をしてこなかったのは、あそんでいたからではありません。お鼻の高さを計る方法が、どうしてもわからなかったのです。」

「そんなこと、いいわけになりません。ひとのお鼻ぐらい、ただものさしを当てて計ればいいのです。」

 王女さまは、きびしい声で言いました。

「いいえ、王女さま、お鼻というのは、一本の棒ではなくて、遠い、東洋の国にあるという富士のお山や、エジプトのピラミッド、人によってはスフィンクスによく似た形をしています。ですから、平面なら「三角形」、立体なら「三角錐」の高さを計るのと同じ方法でお鼻の高さを計らなければなりません。わたしたちは学校に行っていないから、三角形や三角錐の高さを計る方法を知らないのです。」

「自分が知らなかったら、どうしてきょうだいや父親、母親に聞かなかったの?」

「聞きました。でも、お兄さんも、お姉さんも、お父さんも、お母さんも、みんな学校に行ってないから、そんなむずかしいことは習っていないのです。」

「そんなこと、ひとから習うまでもないことだわ。こうやって、ものさしを当てて計ればすむことよ。ほら。あら・・・」

 王女さまは、はた、と困ってしまいました。なるほど、ものさしは鼻にぴたりと当たりません。鼻のてっぺんとものさしの間に、どうしてもすきまができるので、鼻の高さは2.7センチのように見えたり、3.2センチのように見えたりします。これではどうも、ものさしを当てるだけでは、正確な高さはわからないようです。

「なるほど、わかったわ。それなら、宿題をやってこなかったことを許してあげましょう。そのかわり、これからお前たちの身体検査をします。」

「えーっ。そんなあ!」

 王女さまの「身体検査」ということばを聞いて、教室の中は大さわぎになりました。

「ぼく、何もぬすんでないぞ。なんで、身体検査なんかされなきゃならないんだ。」

「あ、持ち物検査とまちがえてる。」

「わたし、身体検査でも、持ち物検査でも、検査って、とにかくきらいよ。」

「先生、何のために検査なんかするんですか。」

 みんなが、口々に言いました。

 算数大先生は、みんなを静かにさせようとして、「しずかに! しずかに!」と大声をはりあげました。

「ああ、うるさい。おしゃべりを、おやめ。さもないと・・・」

 王女さまの「さもないと」ということばを聞いて、教室の中は、ぴたりと静かになりました。

「なんにも数字がなくては勉強できないから、みんなの身長でも計ってみようとおもっただけなの。」

 王女さまのことばを聞いて、みんなはやっと安心しました。

「身長って、背の高さのことでしょう。それなら、わたし、知ってる。わたしのうちでは、毎年33日に柱の前に立って、どこまで背が伸びたか、印をつけてもらうことになっているんです。」

「あれ、おかしいなあ、『柱のきーずは、おととーしのー』っていう、あれだろう? あれは、33日じゃなくって、55日じゃなかったかなあ。」

「いいのっ。よそのうちはどうでも、わたしのうちでは、こうなんだって、かあさん、言ってるわ。」

 子どもどうしの言い合いがはじまりそうなので、王女さまが、間にわって入りました。

3月だって、5月だって、その間に身長がちがってしまうわけはないから、どっちでもいい。3月でも5月でも、去年でも、今年でもいいから、自分の身長を計ってもらったひと。」

「はーい。」

 みんないっせいに、手をあげました。

「では、あなた。お名前と身長を言いなさい。」

 王女さまは、いちばん前の列にちょこんとすわっている、小さな女の子にあてました。

「わたし、さくらです。ちょうど桃の花がおわったころに生まれたので、それなら桜のさきどりだって、お父さんが『さくら』っていう名をつけてくれました。」

「そうなの。よかったわね。それで、身長は?」

「わたし、『しんちょう』って、なんのことか、わからないんです。」

「あなたのおうちでは、柱にきずをつけなかったの?」

「ああ、あれのこと。わたしのうちは、ひとからかりているうちだから、柱にじかにきずをつけるわけにはいかないって、お父さんが、柱と同じ長さの板を買ってきて、これにきずをつけようとしました。そうしたら、お母さんが、『人間がどんなに大きくなっても、そんな高さまで背がのびるなんてことないから、板は半分の長さでよかったかもしれないわね』とやさしく言いました。そしたら、お父さんが、『ほんとにそうだったね、おまえの言うとおりだよ』って、板を半分に切りました。」

「まあ。」

「それじゃあ、そのいらなくなった半分をどうしようかということになって、お父さんとお母さんが相談しているところに、りょうちゃんのお父さんがやってきて、『その半分になった板、うちのりょうすけのためにくれないか』と言いました。お父さんが、『ああ、いいよ、どうせいらなくなったものだ、持っていきな』と言いました。」

「ああ、わかったわ。それで、りょうすけ君のうちでも、柱ではなくて、一枚の板にきずをつけるわけね。」

 王女さまは、さくらちゃんの話が長くなりそうなので、先に話の続きを言ってしまいました。

「ところが、そうじゃないんだ。」

りょうすけ君が言いました。

「長い話を一気にちぢめて、手短にいうとね、さくらちゃんはまだ、ちっちゃいからよかったけれど、ぼくはどんどん背がのびて、柱の半分の長さじゃ、足りなくなっちゃったんだ。それで父さんがね、いつもぼくたちに言うんだ。『いいか、ひととものを分けるって、とってもむずかしいことなんだ。分けてしまったあとからじゃ、もう、とりかえしがつかないから、分ける前に、ほんとうに分けてもいいか、よく考えないといけない』ってね。」

「だから、りょうちゃんはね」

 と、さくらちゃんが言いました。

「おかしでもなんでも、わたしが『分けて』ってたのんでも、すぐには分けてくれないのよ。」

 すると、りょうすけ君が、むっとした顔になっていいました。

「ぼくは、父さんの教えを守って、ほんとうに分けてもいいかどうか、よく考えているだけなんだ。けっきょく、いつも分けてやってるじゃないか。」

「だって・・・。」

 と、りょうすけ君とさくらちゃんの間で、口げんかがはじまりそうになりました。

「ああ、もう、その話はおしまい、おしまい。これからは、みんな、説明なんかせずに、自分の名前と身長だけ言いなさい。」

「はーい。」

「わたし、なぎ子です。身長は、1メートル55センチです。」

「ぼくは、正太郎。ちょうど1メートル半。」

「わたし、雪子。97センチ。」

「ごん吉。あと2センチで1メートル60。」

「わたしは、とし子です。163センチです。」

「ぼく、かずお。87センチです。」

「春子です。1.43メートルです。」

 一人ひとりが、自分の身長を言いました。

 王女さまは、子どもたちの名前と身長を、表にして、黒板に書きました。

 

 名 前

    身  長

 

 なぎ子

 1メートル55センチ

 

 正太郎

 1メートル半

 

 雪子

 97センチ

 

 ごん吉

 あと2センチで1メートル60

 

 とし子

 163センチ

 

 かずお

 87センチ

 

 春子

 1.43メートル

 「みんな、ありがとう。おもしろい表ができたわ。」

 王女さまは、黒板をながめて、満足そうに言いました。

「それでは・・・」

 と、王女さまが言いかけたときでした。

「あれれれ。おれたち、どうなるの?」

 うしろの方で声がしました。そうり大臣のむすこのポジョン君でした。

「そうだ、そうだ。」

「そうよ、そうよ。」

 仲間たちも、ポジョン君に加勢しました。

「あら、あなたたちの身長を聞かないうちに、表がいっぱいになってしまったわね。どうしたらいいかしら。」

 王女さまは、これは困った、という顔で教室中を見わたしました。

「かんたん、かんたん。黒板がまだ空いてるんだから、横にもう一つ表を作ればいいじゃないか。」

 ポジョン君が言いました。

「そうだ、そうだ。カンタン、カンタン。」

「そうよ、そうよ。カンタン、カンタン。」

 仲間たちが、またポジョン君に加勢して言いました。

「なるほど、そうね。それじゃあ、お前、出てきて、となりにもう一つ、これと同じ表を作りなさい。」

「そんなの、かんたん、かんたん。」

 ポジョン君が言うと、仲間たちも、

「カンタン、カンタン。」

 と言って応援しました。

 

            そうれ、カンタン

            ほら、カンタン

            かんたんすぎて

            ほら、チョイ、チョイ

 

 仲間たちの声援に守られてポジョン君が黒板に書いたのは、こんな表でした。


grid.png


「うーん。」

 王女さまは、心の中でうなりましたけれども、まあ、がまんすることにしました。

「よくできました。では、これから残りのみんなに、名前と身長を言ってもらうから、お前が作った表に、それを書き込みなさい。」

「ええーっ!」

 

            「ええーっ!」とおどろく

            ボジョンくん

            勉強のきらいな

            ポジョンくん

            ひとの名前なんか

            書けっこない!

 

「なにーっ。」

 みんなに、はやしたてられて、ポジョン君は、真っ赤な顔になって怒りました。

「おい、ペダゴジ、お前のオヤジ、教育大臣だろ。お前のオヤジが学校なくしたせいで、おれは、ひらがなも、カタカナも、漢字も、ローマ字も、センチだって、メートルだって、なんにも教われなかったんだぞ。これはみんなお前のオヤジのせいだ。だから、むすめのお前が責任取って、みんなの名前、お前が書け。」

「なによ。あなた、もともと、勉強なんかしなかったくせに。」

「なんだと、このベタゴジめ。」

「あ、あたしのこと、ベタゴジだなんて言ったわね。ゆるさないから。」

 ポジョン君とペダゴジちゃんの間で、言い合いがはじまりました。

「ああ、うるさい・・・」

 と、王女さまが言いかけたときでした。

 

 はーるの のはらを

 ながむーれーば

 せり、なずな

 ごぎょう、はこべら

 ほとけのざ

 すずな、すずしろ

 これぞ、なーなくさ

 

 と、歌声が聞こえてきました。それも、ひとり、ふたりの歌声ではなく、大勢がいっしょに歌っている声です。

 

つづく

松永先生、岡崎先生 主演!!

 

朗 読 ― 松永薫、岡崎辰哉

ラップ ― 岡崎辰哉 + コーラス

音 楽 ― 松永薫(フルート) 塩田晃士(キーボード)

技 術 ― 坂井秋一

台 本 ― 梅原宗敬

 

 我が国最古の物語『竹取物語』を、松永先生、岡崎先生が千年前の日本語そのままに朗読。

 そのうえに、「オー、イエス! オー、ノー!」と、ラップまで登場します。背景音楽は、松永先生がハイスクール生時代にアデレードで演奏・録音なさったプーランク作曲「フルートソナタ」と、塩田君のお父さんが物語を聞きながら同時演奏なさったキーボード。

 録音、編集は坂井秋一、わがまま王女さまのイラストは、岡島由美先生、作は梅原宗敬と、補習校ゆかりの人たちだけで作ったホームメード音楽物語です。

 

 補習校サイト『資料室』でお聞きください。


バイリンガルワークショップ資料 - お知らせ

2010年10月16日および10月30日に開催されたバイリンガルワークショップのプレゼン資料、および当日の議事録(要約)を下記に掲載します。なお、質疑応答を含む詳細の議事録は後日アップロードする予定です。

プレゼン資料

要約

 こうしてガヤガヤとさわいでいる子どもたちの相手をいつまでしていてもしかたがないので、王女さまは、みんなに言いました。

「さあ、お前たち、わたしはこれから自分の勉強をさせられなきゃならないから、もうみんな、おうちへお帰り。そして、あしたからは、もとの学校にもどって、しっかりと勉強をおし。」

「えっ、あなたは先生じゃなかったの?」

「それじゃあ、いったい、君、だれなの?」

「わたしのおねえちゃんと、おなじぐらいのとしなのに、せんせいだなんて、へんだなあ、とわたし、ずっとおもってた。」

みんなが、口々に言いました。

「ああ、うるさい。わたしは、王女よ。だから、あんたたちより、ずっとたくさん勉強しなければならないの。」

「どうして?」

「どうしてって・・・。」

 王女さまが返事に困っていると、ひとりの男の子が言いました。

「ぼく、知ってるよ。王女さまっていうのはね、この国の代表だから、この国のことも、隣の国のことも、そしてずっと遠くのことも、いちどにたくさんのことを考えながらものごとを決めることができなければならないんだ。」

「ふーん、王女さまって、たいへんだけど、それって、すごいことよね。よーし、王女さま、わたし、あなたと同じぐらいたくさん勉強して、大きくなったら、あなたのお手伝いしてあげる。」

「できれば、代わってくれてもいいんだけど・・・。」

 王女さまは、ぼそぼそっとした声で言いました。

「あら、それはだめよ。わたしね、まえに、母さんにきいたの、わたし、どうして母さんのところに生まれてきたのって。そしたらね、母さんが教えてくれたの。『それはね、あなたが、この世に生まれてくるよりもずっと前に、だれかがあなたに、あなたは、こんどこの世に生まれてくることになったけれど、ほんとうに生まれたいかってたずねて、あなたが、はい、生まれたいですと言い、それじゃあ、男の子に生まれたいか、女の子に生まれたいかってたずねられて、あなたが、女の子に生まれたいです、と答えたの。そして次に、この人のところに生まれることになっているけれど、それでいいかってたずねられて、あなたが、はいって答えたからなのよ』って。」

 すると、別の子が、そんなこと「うそ」に決まってる、と言いました。

「もちろん、そんなことほんとうじゃないって、すぐにわかったわ。でも、そんなふうに話してる母さん、とってもうれしそうだった。だから、ほんとうの話じゃないけれど、うそというわけでもないのよ。母さんは、わたしが、この人のところに生まれたいって、わざわざこの自分を選んで生まれてきてくれたんだ、ああ、ありがたいって、きっと思いたいんだと思うわ。」

「わかった。わたし、王女のままでいい。自分で選んで王女になったんだと思えば、べつにいやなことでもない。そうよ、わたし、自分で王女になりたいと考えて王女に生まれたの。だから、わたし、王女なの」

「ふうん、そうなの。」

 と、小さな女の子も、なっとくしました。

 算数大先生も、その様子を見て、うれしそうにしていました。

 

 さて、次の日、王女さまが、王女さまの勉強室で算数大先生を待っていると、教室の外から、わいわい、がやがやと、大ぜいの子どもたちの、さわがしい声が聞こえてきました。ぶえんりょな笑い声もまじっています。

 王女さまは、勉強室の戸を開けて廊下に出てみました。廊下では、算数大先生がひとりで、うるさい子どもたちを静かにさせようと、けんめいになっていました。

 とくにうるさいのは、大きな男の子たちでした。しきりにじょうだんを言い合っては、おたがいの頭をたたいたり、たたきかえしたりしています。王女さまのすがたを見てみんなが静かになっても、やっぱり、じょうだんや悪ふざけがやめられない様子です。

「王女さま、申しわけございません。今朝もまた、王女さまのお教室をお借りしなければならなくなってしまいました。」

 算数大先生が、いかにも申しわけないという様子で言いました。

「どうしたのです。子どもたちはみんな、学校に行っているのではありませんか。」

 王女さまがたずねると、算数大先生は、こう言いました。

「たしかにそのはずではございますが、この子たちの学校は、まだはじまってはいないのでございます。」

「なぜですか。」

「きのう、王女さまのお授業が終わりました後、さっそく教育大臣さまに王女さまのおことばをお伝えしましたところ、教育大臣さまは、たいへんお喜びになり、そうり大臣さまとご相談になりました。そうり大臣さまは、それはもう大喜びですべての大臣さまたちを指揮して、学校を開く用意におとりかかりになりました。

 建設大臣さまが、さっそく学校の建て直しをしよう、それができなければ学校を開くことなどできない、とおっしゃいましたが、教育大臣さまが、建物より何より、まず、子どもたちを教える先生たちにこのことを知らせるのが先だとおっしゃいました。そこで、大臣さまたちが、手分けして、国中の先生たちに、学校の建物があってもなくても、とにかく授業をはじめる準備をしてもらうように、たのみに行くために、旅の支度もそこそこに、全国に向けて出かけて行こうとなさいました。そのとき、そうり大臣さまが、『待った!』とおっしゃいました。

 大臣さまがたが、何ごとかと、足を止めてそうり大臣さまのお顔をごらんになりますと、そうり大臣さまはこうおっしゃいました。『私たちは、何でも、お城のすぐ近くをよくすることからはじめようとする、よくないくせがあります。みなさん、今回はまず、国のいちばん遠いところまで行って、そこからじゅんじゅんにお城に近いほうにもどってきてください。さあ、出発してください。食べ物やお着替えは、すぐに係りの者たちが持ってあとを追いかけるように手配しますから、皆さんは、とにかくできるだけ遠くまで進むことに心を尽くしてください』と。

 そんなわけで、この子たちには、まだ学校がないのでございます。そこで、王女さま、申しわけございませんが・・・」

 算数大先生が言いかけると、王女さまが、算数大先生のことばをさえぎりました。

「ああ、その先は言わないで。わたしは、一を聞けば十をさとる、かしこい王女なの。つまり、『そこで王女さま、申しわけございませんが、きょうからしばらく王女さまのお勉強はお休みにして、この子たちのために、だいじな王女さまのお勉強室をお借りしたいのでございますが』と言いたいのね。けっこうよ。どうぞ。それでは、わたしはしばらく、お勉強をはなれて、ゆっくりさせてもらうことにします。」

 王女さまのことばを聞くと、子どもたちは、「わーい」と言って、いっせいに王女さまの勉強室の中にかけこみました。算数大先生がとめる間もありませんでした。

 

「へえー。ずいぶん粗末な部屋なんだな。赤いじゅうたんやら、金の窓ガラスやら、大きなシャンデリアやらがいっぱいあるのかと思ったら、なーんにもない。ただの学校の教室じゃないか。なーんだ。」

 さっきから悪ふざけをしていた男の子たちが、大きな声で言いました。

「あら、これ何かしら? ノートね。でも、中になんにも書いてないわ。王女さまって、ノートに書いたりせずに、全部、頭の中でおぼえておくのかしら?」

「まさか、そんなことないわよ。きっと、家来におぼえさせるのよ。」

「そんなー。ああ、おかしい、げら、げら、げら。」

 そんな声が聞こえてきました。きのうの子どもたちとは、よほど様子がちがいます。王女さまと算数大先生は、顔を見合わせました。算数大先生が、あわてて勉強室の中に入っていこうとしました。すると王女さまは、先生に合図して、自分がひとりで勉強室の中に入って行きました。

「みなさん、わたしの勉強室にようこそ。みなさんがごらんのとおり、ここには、シャンデリアも金の窓ガラスも、ぜいたくなものは一切ないのですよ。あるものは、勉強したあい、という熱心な気持だけ。あなたたちも、勉強したくなったでしょう。」

 王女さまがそう言うと、みんないっせいに言いました。

「勉強なんか、したくなあい。」

「おや、それなら、あなたたちは、みんな、イソギンチャクになりたいのね。」

「イソギンチャクなんかに、なりたくなあい。」

「でも、もう、みんななっちゃったから、手おくれよ。」

「手おくれじゃなあい。」

「手おくれかどうか、ためしてみたい?」

 王女さまがたずねると、みんないっせいに言いました。

「ためしたくなんか、なあい。」

 ところが、王女さまは言いました。

「わたしは、どうしても、ためしてみたあい。

 イソギンチャクになってしまった人間の子どもが、あるとき、メダカの子をつかまえました。すると、メダカの子は、おどろいて言いました。『イソギンチャクさん、こんな小さなわたしを食べても、おいしくなんかありませんよ。ここから2.5キロ行ったところに、フナが泳いでいます。フナのほうが大きいし、メダカなんかよりずっとおいしいですよ。』

 イソギンチャクは、『これは、いいことを聞いたぞ』とよろこんで、メダカの子をぱくんと食べると、2.5キロ泳いで行ってみました。たしかによく太っておいしそうなフナがたくさん泳いでいました。

 イソギンチャクがフナを一匹つかまえると、フナは、おどろいて言いました。『イソギンチャクさん、こんな美しくもないわたしを食べても、おいしくなんかありませんよ。ここから0.5キロ行ったところに、それはそれは美しい金魚たちが、たくさん泳いでいます。金魚のほうが美しいし、それに、金魚というものは、それはそれはおいしい魚なんですよ』

 イソギンチャクは、『これは、いいことを聞いたぞ』とよろこんで、金魚をぱくんと食べると、0.5キロ泳いで行ってみました。するとそこには、たしかにおいしそうな金魚がたくさん泳いでいました。

 イソギンチャクが中でも一番おいしそうな金魚を一匹つかまえると、金魚は、おどろいて言いました。『イソギンチャクさん、金魚というものは、ああ、美しいといってながめるだけのもので、わたしを食べても、おいしくなんかありませんよ。ここから1.5キロ行ったところの、にごった水の中に、ドジョウが一匹かくれています。ドジョウは栄養があるし、ドジョウなべにして食べることだってできますよ。』

 イソギンチャクは、『これは、いいことを聞いたぞ』とよろこんで、金魚をぱくんと食べると、1.5キロ泳いで行ってみました。たしかに岩かげに、ドジョウが一匹かくれていました。

 イソギンチャクがよろこんで、さっそくドジョウをつかまえて食べようとすると、ドジョウがおどろいて言いました。『イソギンチャクさん、こんな小さなドジョウなんかを食べても、栄養にはならないし、それに、ドジョウなべなんか、めずらしいものではありません。ここから3.5キロ行ったところに、大きなウナギがねむっています。ウナギは、広い世界を回ってあちこちでおいしいものを食べて、そしてまた生まれ故郷にもどってくる魚ですから、ウナギを一匹食べれば、世界中の食べ物を食べたのと同じことになるのですよ。わたしのことなんか放っておいて、ウナギがまた世界旅行に出かけてしまわないうちに、いそいで行ってごらんなさい。』

 イソギンチャクは、『これはいいことを聞いたぞ』とよろこんで、ドジョウをぱくんと食べると、3.5キロ泳いで行ってみました。なるほど、そこには大きなウナギがねむっていました。イソギンチャクが、しのび足で近づくと、ドジョウが片目を開けて言いました。『お前さん、オレを食うつもりだな。それなら、オレが出す問題に答えてからにしてもらおう。では行くぞ。問題。むかし、ばかなイソギンチャクがおったげな。そいつは、はじめに2.5キロ、次に0.5キロ、次に1.5キロ、そして最後に3.5キロ、旅を重ねて、やっとウナギさまという、うまいエサまでたどりついたそうな。イソギンチャクは、全部で何キロ旅を重ねたか。分かればよし、分からなければお前はこれから、いそぎの旅などできないベタリンチャクとなって、一生、岩にはりついて暮らすのだ。』 さて、問題。」

 と、王女さまは言いました。

「イソギンチャクは、全部で何キロ旅をかさねたでしょうか。答えられればよし、答えられなかったら、あなたたちは、一生、この部屋に閉じ込められて、わたしの代わりに勉強させられるのよ。」

 

 さて、この物語を読んでいるあなた、そして聞いているあなた、問題の答えは、何でしょうか。え? もう、分かってしまったのですか。 え? 何キロですって? そうです。正解! よかったですね。あなたは、ベタリンチャクにならずにすみました。

 一方、イソギンチャクは、ウナギが出した問題に答えられなくて、とうとうベタリンチャクにされてしまいました。そのうえに、メダカやフナや金魚やドジョウを食べたばつとして、おいしい水がいっぱい流れている川から追い出され、塩からい水で満たされている海まで旅して行って、そこで岩にはりついて暮らすことになりました。だから、イソギンチャクは、波が打ち寄せては引いて行く、海の岩にいっしょうけんめいにしがみついて暮らしているのです。近くに寄ってくるものは何でもつかまえて食べずにはいたれない生き物なので、海岸でイソギンチャクを見つけても、決して手でさわってはいけないのですよ。

 

 さて、王女さまは、王女さまの勉強室であいかわらずガヤガヤさわいでいる子ども達に、次の問題を出しました。

「むかし、むかし、ある国に『総理大臣』がいました。」

 王女さまがそれだけ言うと、もう、質問が出ました。

「はい、先生。わたし、その漢字、知りません。だから、その先を聞いてもきっと分からないと思います。うちに帰って、お母さんの仕事を手伝ってもいいですか。」

「いいわよ。でも、知らないままでおうちに帰ったら、お母さんは、漢字が読めないなら、もういっぺんお城に行って、その漢字の読み方を教わっておいで、せっかく勉強できるというのに、教わらずに帰ってきてしまったらそんじゃないかって、きっとおっしゃるわよ。そうなったら二度手間だから、今、漢字の意味を習ってから帰ったほうが、あなただって、ずっとらくをすることができて、いいと思うわよ。」

 王女さまが言うと、質問した女の子は、「それも、そうね」と言って帰らないことにしました。

「あ、その漢字なら、ぼく、知ってるよ。」

 ひとりの男の子が言いました。

「『そうりだいじん』って読むんだ。」

 すると、さっきの女の子が、また言いました。

「読み方が分かっても、意味が分からなきゃしょうがないから、わたし、二度手間でもいいから、帰る。」

 すると、さっきからわるふざけばかりしていた大きな男の子たちの中の一人が言いました。

「なんだ、知らないの? じゃあ、教えてやるよ。総理大臣とは、王女さまに代わって政治をとる、国でいちばん大事な仕事をしている人のことを言うんだ。だから、お前も将来は、父ちゃんのように総理大臣になって、国を思い通りに動かすようになるんだよって、おれの母ちゃん、いつも言ってるよ。ね、王女さん、そうなんだよね。」

「そ、そう。その通り・・・だと思うわ。きっと。」

 王女さまは、総理大臣がそんな大事なことをしているのかどうか、よく知りませんでしたから、総理大臣の子どもが言っていることが正しいのか、それともまちがっているのか見当もつきませんでした。

 すると、別の男の子が言いました。

「あれ、へんだなあ。ぼくの父さんは体育大臣なんだけど、母さんはそんなこと、言ってなかったなぞ。ポジョンちゃん ― ポジョンちゃんとは、総理大臣の子どもの名前なんだけどね ― ポジョンちゃんの父さんは、別にひとりで王女さまの代わりをしているわけじゃない、体育大臣やその他おおぜいの大臣たちみんなが王女さまに代わって仕事をしていて、ポジョンちゃんのお父さんは、ただその代表をしているだけだって言ってたよ。」

 すると、総理大臣の息子が、言い返しました。

「ちがうぞ。おれの父ちゃんが大臣の中でいちばんたいへんな仕事をしてるんだぞ。『お前の父さんはね、本当は王女さまよりもっと大事な人なんだよ』って、母ちゃんはいつもおれに言ってるぞ。」

「まあ、何てことを言うの。」

 と王女さまは、びっくりしたうえに、むっとしてしまいました。

「それに」と、総理大臣の息子のポジョンが、また言いました。

「お前たちの母ちゃん、おれの母ちゃんが開くお茶会に集まると、いつも言ってるじゃないか。総理大臣さまが王女さまのめんどうを見てくださるから、うちの主人は王女さまに直接会わずにすむからとっても楽だって。」

 これを聞いて王女さまは、すっかり腹を立ててしまいました。

「お前たち、何てことを言うの。それじゃあ、みんなでこの問題をお考え。」

 と言って、むずかしい算数の問題を出しました。

「むかし、にくらしい総理大臣がいました。そのにくらしい総理大臣はいつも、おれさまは王女さまよえりらいのだぞ、と言っていました。ほかの大臣たちも同じように、おれだってえらいぞ、と言っていました。

 そこで神様が、どの大臣が一番えらいか、テストすることにしました。神様は大臣の子どもたちを集めて言いました。『子どもたちよ、こんばん、お前たちの父親が仕事から帰ってきたら、お父さま、失礼しますと言って、ものさしで、自分の父親の鼻の高さを計って参れ。一番鼻の高い大臣が一番えらいとすることにする。』そこで子どもたちは家に帰って、自分の父親の鼻の高さを計りましたとさ。

 きょうの勉強は、これでおしまい。お前たちも、家に帰って、自分の父親の鼻の高さを計っておいで。」

 

 王女さまはそう言うと、黒板を消して、本とノートをまとめて、教室から出て行ってしまいました。算数大先生も、子どもたちをあとに残して、教室から出て行ってしまいました。

 

つづく

動物クイズ『ディンゴー編』アップ! - お知らせ

お待たせしました。大好評の動物クイズ『カンガルー編』、『コアラ編』に引き続き、『ディンゴー編』が掲載されました!
ぜひご家族全員でお楽しみください!
6月26日(土曜日)に開催されたワークショップの資料を、「資料」のセクションにアップロードしました(リンク)。

「みなさん、さあさ、お待ちかね、算数のお勉強のお時間でございますよ。」

 算数大先生が、元気よく、王女さまの勉強室に入ってきました。

「あら、『みなさん、さあさ』なんて、先生、ことばの使い方がまちがってるわ。」

「おや、そうでございますか。それなら、『さあさ、みなさん』とでも、申せばよかったのでございましょうか。」

「そうじゃないわ。わたしひとりしかいないのに、『みなさん』と言うのが変なのです。それに、きょうは、わたしが勉強させられるのではなくて、先生、あなたがお勉強させられるはずよ。だって、きのう、わたしが宿題を出しておいたじゃありませんか。」

「おや、そうでございましたか。それなら、王女さま、申しわけございません。その宿題は、忘れました。それに、きのうの午後はいそがしくて、私に宿題があるなどとは、思い出すひまもございませんでした。」

 先生は、自分が宿題を忘れたというのに、口では『申しわけございません』と言いながら、少しも悪かったと思っている様子もありません。

「それなら、先生、廊下に、バケツを持って立っていらっしゃい。」

 王女さまは、むっとして、先生に命令しました。

「おや、おや、王女さま、おそれいりますが、きょう私は、とてもそんなことをしているわけには参らないのでございます。」

「あら、廊下に立っていられないほど大事なご用って何なのです?」

王女さまは、つい、つられて、算数大先生にたずねてしまいました。

「おお、ようこそおたずねくださいました。それでこそ、我が国の王女さまでございます。そのわけをご説明いたしましょう。そのためには、まず、皆々を王女さまのお勉強室に呼び入れなければなりません。では、王女さまに失礼して、皆を呼び入れさせていただきましょう。

 さあさ、みんな、王女さまのお許しが出た。お教室に入っておいでなさい。」

 算数大先生が王女さまの勉強室の外に声をかけると、

「わーい!」と歓声が上がりました。そして、どやどやっと、子どもたちがたくさん入ってきました。

「なななな、なんです、この子たちは!

 王女さまは、驚いて言いました。

「おや、ここに子どもがいるよ。だれなんだろう、この子。」

「女の子だね。」

「かわいいね。」

子どもたちは、口々に言いました。

「そうでもないわ、わたし、こわいのよ」

王女さまが言うと、別の子どもがたずねました。

「えーっ、こわいの? それじゃあ、あなた、先生? 先生なら問題出して。」

「えっ?」

 王女さまは、びっくりしてしまいました。

「ああ、みんな、静かに、静かに。」

 算数大先生が、あわてて子どもたちを静かにさせました。

「王女さま,申し分けございません。実は、私、きのうの午後、家の外がさわがしいので外に出てみますと、子どもが大勢で、いたずらをして遊んでおります。わけを聞きましたところ、子どもたちは学校に行ったり勉強したりしなくてもよくなったので、ただいたずらをして遊び回っていると申します。そこで私、王女さまからいただいた大切な宿題のことなどかまっていられなくなりまして、お城の馬をお借りして、町の中をあちこち回ってみましたところ、どこでも子どもたちが、わけもなく、いたずらをして遊んで回っております。お城では、この子らと同じような年ごろの王女さまが毎日熱心にご勉強あそばしておいでになるというのに、いったい、何というちがいだと思いまして、一度、王女さまのお姿をこの子たちに拝見させよう、そうすれば、子どもたちも、これではいけないと気付いて、毎日の暮らし方を考えるようになるにちがいないと思ったのでございます。

 そこで、王女さまのお許しもなく、きょうは、朝早くからお城の近くでうろうろとしておりました子どもたちを連れて参りました。子どもたちには静かにさせますので、お教室の後ろのほうで、王女さまのご勉強中のご様子を拝見させてやっていただくわけには参りませんでしょうか。」

 算数大先生は、いっしょうけんめい、王女さまにお願いしました。

「なんだ、そんなことだったの。だめよ。わたしが勉強させられている姿をこの子たちに見られるなんて、そんなこと、できるものですか。きょうは、わたしが先生になって、この子たちに勉強させます。」

「えっ!  王女さまにそんなこと・・・。」

 算数大先生は、すっかり驚いて、思わずことばが口から出てしまいました。

「わたしにそんなことできっこない、と言うのですね。」

「いえ、いえ、王女さまにそんなことまでしていただくのは、おそれおおいこと、と申し上げようとしたのでございます。」

「あら、そんなことないわ。わたしがどんなに厳しく教えられているのか、この子たちによくわからせてやります。では、ぶらぶらと遊んでいたためにお城の私の勉強室に連れて来られた子どもたち、早速、お前たちに問題を出します。これもしかたがない運命だと考えて、しっかりと勉強おし。」

 王女さまが厳しい声で言うと、子どもたちが、いっせいにがやがやとさわぎ出しました。

「えっ、『問題』って、何?」

「『考える』って、いったい、何をすることなの?」

「私たち、学校なんか行ったことないから、『問題』って何のことか知らないし、『考える』も『答える』も知らないのよ。」

「そうだよね。ほかに、『宿題』も、『勉強』も、『計算』も、『算数』も、それから、『体育』や『技術教育』ってのも、何のことだかちっともわからないよね。」

「そうだよ。そんなもん、聞いたこともない。」

 そこで、王女さまが声を張り上げて言いました。

「ああ、うるさい。みんな、それだけ知らない、知らないと言えるなら、それで十分。知らないままで、私が出す問題に答えなさい。答えられればそれでよし。答えられなかったら、お前たち、ムチ打ちの刑よ。それがおそろしかったら、しっかりお考え。」

 そして王女さまは、まず第一の問題を出しました。

 

「ある日、湖にボートが1そう出ていました。ボートの底を魔女がのこぎりでゴリッとひいたものだから、水がドドッと入ってきました。そのため、ボートは、少しずつ沈んでいきました。

 まず4cm沈み、次に、もう3.5cm沈みました。さあ、ここまでで、ボートが何センチ何ミリ沈んだか、お答え。」

 王女さまが問題を言い終わると、

「はいっ、先生!」

 と、ひとりの女の子が手をあげました。

「はい、そこの女の子。答えがわかったのね。」

「いいえ、そうじゃないの。わたし、『てんご』って、何のことか、知らないの。」

「えっ? 『てんご』なんて、わたし、言ってないわよ。」

「そんなことないわ。あなた、『はじめに4cm、次に3.5cm』って言ったじゃない。」

 女の子は、とほうにくれた様子で言いました。

「なんだ。わたしはね、『てんご』じゃなくて、『3てん5センチ』って言ったのよ。それでわからなかったら、『3センチ5ミリ』と考えてちょうだい。」

 王女さまが言うと、女の子も、「なんだ」と言いました。

3センチ5ミリなら知ってるわ。わたしのお父さんは洋服屋さんだから、1センチ5ミリ、2センチ5ミリ、3センチ5ミリって、いつも職人さんたちと話してるわ。」

 すると、別の子が言いました。

「え? 職人って、何のこと? ねえ、教えて。」

 ここで王女さまが、大きな声で言いました。

「ああ、うるさい。ほかの話をするんじゃないの。わたしがお勉強するときは、じっと静かに考えて、お前たちのように、がやがやおしゃべりなんか、しないんだから、お前たちも、静かに、しっかりと問題に取り組みなさい。」

「え? 問題なんか、まだ出てないよ。」

「答案用紙だって、もらってないよ。」

「先生、式とか答えとかというのも、書くのですか。」

「ぼくたち、学校なんか行ってないのに、どうして勉強させられちゃうの?」

「わたし、ボートだなんて見たことないから、この問題、考えられないわ。」

 子どもたちは、またまた、うるさくなりました。

「お前たち、算数というものは、見たことがあってもなくても、答案用紙があってもなくても、とにかく何でも、あるものとして考えるの。数に関係があることなら、出合ったことがないことでも考えられるようにするための練習なんだ、と思って考えなさい。」

 王女さまは、こわい声で言いました。

 すると、それまで、じっとだまって考えていた、ひとりの子どもが言いました。

「そうか。わかった。算数って、ぼくたちのあそびと、おんなじだ。」

「えっ?」

 王女さまは、思わず、その子のほうの見ました。

「だって、そうだよ。『お寺のおしょうさんが』だって、『なーらの、なーらの、大仏さんが』だって、『せーんろは、つづくーよ、どーこまでもー』だって、みんな、見たことがないものばっかりだけど、別にそれであそべないわけじゃ、ないんだよね。

 そうだ、先生、『お寺のおしょうさんが』で問題出して。どうせなら、さっき、みよ子ちゃんが言ってた、『てんが』の問題がいいよ。」

「それがいい、それがいい」

 と、みんなが言いました。

 こうしてやっとみんなが勉強する気分になってきたので、王女さまは、いい気分になって、「えへん」とせきばらいして、『お寺のおしょうさんが』の問題を出しました。

「お寺のおしょうさんが、かぼちゃのたねを、3.5つぶ、まきました。

 芽が出て、ふくらんで、

 花が咲いたのは、いくつでしょうか。」

「がや、がや、がや。」

 生徒たちは、みんな、いっしょうけんめいに考えました。

「おかしいわ。わたし、どうしても、この問題、考えられないわ。」

 ひとりの女の子が、言いました。

「考えられなかったら、あなた、ムチ打ちの刑よ。」

 王女さまが、言いました。

「先生、もしかしたら、この問題、まちがっているんじゃないかしら。」

 女の子は、ひるまずに言いました。

「先生が出す問題というものは、まちがったりは、ぜったいにしないの。しっかりとお考え。」

 王女さまが言いましたが、女の子は、やっぱり考え込んだままでした。そして、言いました。

3.5つぶとは、つまり、3つぶと半分のことでしょう? かぼちゃの種をどうして半分にしたのかしら? 中はどうなっているのかな、と思って、ナイフで切ったのかしら? そんなことしたら、芽なんか出るわけないのに、どうして切っちゃったのかしら?」

 王女さまは、「えっ」と思いましたが、ここでまけるわけにはいかない、と思いました。

「まいた種が3.5つぶなら、咲く花も3.5、最後になる実も3.5。それより多くも、少なくも、なりようがないのっ!」

 と、強い声で言いました。

「花が、三つと半分? 半分の花って、どんなふうに咲くんですか。だれかが花びらをちぎってしまったのなら分かるけど、はじめから半分しか咲かなかったら、その花は病気だから、実にはならないわ。」

 こうして、かぼちゃの種の問題は、だめになってしまいました。

 それなら、奈良の大仏さんの問題に変えよう、ということになりました。

「えへん。では、奈良の大仏さんが、3.5じゃなくて、ええと、2.5でもなく、5.5もだめだし・・・。あら、どうしよう。」

 王女さまは、こまってしまいました。

「それでは、すずめ、ということになさってみては、いかがでございましょうか。」

 算数大先生が助け舟を出しました。

「そうね。すずめが3.5羽いました。あら、これもだめだわ。」

 王女さまは、がっかりしました。

 みんなも、がっかりしました。そして、やっぱり、算数の勉強と、あそびとはちがうのだ、とみんなは思いました。けれども、ひとりの子どもが、大事なことに気がつきました。

「わかった。ぼくたちは、半分にしたり、3分の1にしたりすることなんか、できないものについて問題を作ろうとしたからだめなんだ。『せーんろは、つづくーよ』だったら、きっと、うまくいくよ。『きょうは、線路を1.5キロ作りました。あしたも1.5キロ作るとすると、線路は全部で何キロになるでしょうか。』ね、これなら計算できるよ。」

 そこで、みんなは、この問題を考えることにしました。

 そのとき、「わーん」と、小さな女の子が泣き出しました。

「わたし、まだちっちゃいから、でんしゃにも、きしゃにものったことがないの。えきだってみたことがないのよ。だから、せんろってなんのことだかわからないし、1.5キロっていわれても、なんのことだか、ちっともわからない。わからなかったら、せんせいにムチでうたれちゃう。わーん。」

「いいのよ、いいのよ。お姉ちゃんが、身代わりで打たれてあげるから。」

 女の子のお姉さんが、やさしく言いました。

「だめーっ。だいじなおねえちゃんが、ぶたれたら、わたし、かなしい。」

 女の子は、また、泣き出しました。

 そこで子どもたちが、みんなで、王女さまの顔をじーっと見ました。

「わかった、わかった。もう、ムチ打ちなんか、なし、なし。だあれも、ぶたれたりなんかしないから、安心してけいさんなさい。」

 王女さまは、あわてて言いました。

「うわあい、じゃあ、ゆっくり考えようっと。

 えーと、せんろこうふさんたちが、いっしょうけんめい、はたらいたので、いちにちめには、せんろが1.5キロ、つまり、1キロはんできたわけね。ほんとうは、もうちょっといっしょうけんめいだったら、もうあとはんキロできて、ぜんぶで2キロになったかもしれないけれど、これはさんすうの、もんだいいだから、そんなところまではかんがえなくてもいいのよね。

 そして、つぎのひも、おなじだけがんばったので、やっぱり、できたのは、1.5キロだけでした。

 『1.51.5』とかんがえてもいいし、いちにちめもふつかめもなじだから、『1.5×2』とかんがえてもいいわ。でも、わたし、かけざんは、まだならっていないから、たしざんでかんがえることにする。

 はい、せんせい、『1.51.53.0』。こたえは、3キロです。」

「あたり。」

「それじゃあ、せんせい、せんろこうふさんたちは、つぎのひも、またおなじだけがんばりました、みっかかんで、せんろはなんキロになったでしょうか、というのをかんがえてもいいですか。」

「お前が考えたいのなら考えてもいいけれど、まちがったら、ムチ打ちよ。」

「あーん、ムチうちはもうしないって、さっきやくそくしたのに。」

「ああ、もう、今のは、うそ、うそ。まちがいよ。」

「ああ、よかった。じゃあ、また、おちついてかんがえようっと。」

 女の子は、三日目の問題に取り組みました。

 そのとき、別の子どもが言いました。

「より子ちゃん、ずるいよ。さっきから、もうずっと、ひらがなだけ使ってお話ししてる。ぼくの母さん、いつも言ってるよ。なんでもかんでもひらがなだけで書いてると、いつまでも子どもことばでものを言ってるのとおんなじだから、できるだけたくさん漢字を覚えて、漢字を使うようにしたほうがいいって。」

「あーん、としおくんの、いじわる。『おまえは、まだちいさいから、よそのこたちのように、そんなにかんじ、かんじって、いわなくてもいい』って、わたしのかあさん、やさしくいってくれてるよ。それなのに・・・。」

「ああ、うるさい、うるさい。

 みんな、起立、気をつけ、礼。

 先生、王女さま、子どもたち、

 これで勉強はおしまいだから、

 みんな、さようなら。

 あしたからは、みんな、自分が住んでいるところの学校にもどって、ちゃんと、勉強しなさい。」

 王女さまのことばを聞いて、みんなはとびあがって、喜びました。

「えっ、また学校に行けるの? ようし、ぼくは、運動会でも水泳大会でも、一等賞とるぞ。」

「わたしは、紅葉狩りが楽しみだわ。モミジをふろしきにいっぱい、取って来よう。」

「ぼくは、秋のいも掘りに、毎日行くことにする。いいなあ。きょうもいも掘り、あしたもいも掘り。あさってもいも掘り・・・秋が終わって、冬になっても、春になっても、夏になっても、毎日休まず学校に行って、来る日も、来る日も、いも掘りだ。ああ、夢がふくらむなあ。」

「わたしは、何と言っても、きゅうけい時間が楽しみだわ。おはじき、お手玉、シャボン玉。かげふみ、けんけんぱーに、おにごっこ。そして、それからそれへと、楽しいことをいっぱい、探そう。」

 子どもたちが言うのを聞いて、王女さまは、思わず算数大先生の顔を見ました。

 算数大先生も、ちょうどそのとき、王女さまの顔を見ようとして、王女さまのほうに顔を向けたところでした。

 算数大先生の目と、王女さまの目が合って、ふたりは、思わず、「ぷっ」と吹き出しそうになりました。

 

つづく

 

「先生、おはようございます。おひめさま、おはようございます。起立、気をつけ、礼、着席。さ、お勉強をはじめましょ。」

 きょうは、王女さまはいつになく積極的で、算数大先生を驚かせました。

「おや、なんと、王女さまは、もうお勉強なさりたい、お勉強なさりたいと、大へん張り切ってくださっておいででございますな。

 それでは、王女さまのお気がかわらないうちに、さっそくお勉強をはじめることに、いたしましょう。」

 算数大先生は、うれしそうに言いました。

「なんですって、わたしの気がかわらないうちにというのは、どういうことですか。」

 王女さまが、算数大先生のことばを、聞きとがめました。

 算数大先生は、ああ、しまった、なんということを言ってしまったのだろう、これで、きょうの王女さまのお勉強のお時間は、王女さまのむだ話でつぶれてしまうことになった、と自分がうっかり口にしてしまったことばを、くやみました。けれども、王女さまは、にっこり笑って言いました。

「おほ、ほ、ほ、ほ、ほ、ほ。

 きょうのわたしは、いつもの王女さまとは、ちょっとちがうのよ。ささ、もう一度、はじめからやり直しましょ。

 起立、気をつけ、礼、着席。

 おひめさま、おはようございます。」

 王女さまのきげんのよい顔を見て、算数大先生は、ほっと、胸をなでおろしました。

 それにしても、自分に向かって「おひめさま、おはようございます」というのは、どうしたことだろうと、算数大先生は思いました。

「王女さま、ごきげんがおよろしいのは、いかにも、およろこばしいことでございますが、ご自分に向かってごあいさつなさいますのは、これはいったい・・・。」

「ああ、すべてを言わないで。

 王女のわたしが自分のことを『おひめさま』だなんていうのはおかしい、とおっしゃりたいのでしょう。」

「それは、まあ、お気づきでございましたら、それでけっこうでございますが、ご自分に向かってごあいさつなさいますのは、どういうことかと・・・。」

「それはね、わたしは、これから自分を大切にすることにしたの。」

「それは、けっこうなことでございますが、しかし・・・」

「シカでもトラでもないのよ。

 わたしは、こうと決めたら、どうしてもそうするの。だから、先生、あなたもご自分を大切になさい。そうすれば、どんなことでも耐えていけるのよ。お勉強だってへっちゃらなんだから。さあ、きょうは、どんなお勉強をするのかしら」

 王女さまのようすに、算数大先生は、すっかりとまどってしまいましたが、とにかく、今をのがしたら、いつまた王女さまが勉強したいという気分になってくれるかわかりませんから、すぐに授業にとりかかることにしました。

「はい、王女さま。きょうは、5分の7引く5分の4をご勉強いただきます。」

「え? 『ごはんがすんだら、ななぶき引いて、ごぶざき、ようかん』ですって? いったい、それは、何のことかしら。」

 王女さまのことばを聞いて、算数大先生は、「ああ、あ」とため息をつきました。

 

 ― やっぱり、王女さまは、ご勉強など、なさるおつもりは、

 ないのだ・・・ ―

 

「先生、わたし、いきなり『5分の7』なんて言われても、何のことだか、わからないの。」

「でも、王女さまは、もう分数のことをよくごぞんじだったのでは、ないのでしょうか。」

「そりゃあ、わたしは王女だから、何でも知ってるわ。

 でも、『5分の7』は知らないの。

 だって、そうでしょ。『王女さま、ここに、おいしそうなようかんが一本あるといたしましょう。目の前に、ほんとうにようかんがなくても、あるものとしてお考えいただくのが、算数のお勉強でございます』と、先生はおっしゃるにちがいないわね。」

 王女さまのことばを聞いて、算数大先生は、あわてて言いました。

「王女さま、私は何も・・・。」

「わかってる、わかってる。『王女さま、わたくしは、そのように申し上げてはおりませんが』とおっしゃりたいのでしょう。

 実際に言わなかったことでも、言ったものとして考えるのが、お勉強というものなのよ。だから、お勉強なんてきらいだわ。『もしも』ばっかりなんだもん。

 とにかく、もしも、ここにようかんがあったとしたら、これを仲良く5人で分けたくなったとしましょう。

 けんかをしないために、どの一切れも同じ大きさになるように切ります。一切れ何センチの幅に切ればよいでしょうか。はい、先生、あなたがお答えなさい。」

「王女さま、お答えいたしたくは、ございますが・・・。」

「ああ、分かってる、分かってる。これが、虎屋のようかんか、岩谷堂のようかんかわからなければ、分けようがない、とおっしゃりたいのでしょう。それなら、昔ながらにたけのこの皮に包んだ岩谷堂のようかん、ということにしてお答えなさい。」

1.png2.png

 算数大先生は、こんなふうにしか考えられない王女さまに、いったいどうやって算数を教えたらいいのだろうか・・・と、頭の中が、少しくらくらしてきました。

「今のは、じょうだんよ、先生。

 先生が本当に言おうとなさっていたのは、ようかんの長さが何センチかがわからなければ、目ぶんりょうでしか切れないから、一切れ何センチに切ればよいかはわからない、と言いたいのでしょう。

 それなら先生、あなただけにそっと教えてあげましょう。

 ようかんの長さは、5センチです。」

「えっ。何とまあ、小さなおようかんで・・・。」

「そうなのよ。教育大臣が、白墨の粉や、鉛筆のけずりかすでよごれてしまったら、そのようかんは、もう食べられなくなるから、お勉強に使うようかんなんか、できるだけ小さいのでがまんしていただきましょう、王女さまのお勉強にお使いいただくようかんは、一口ようかんで十分です、と言ったの。」

「えっ、まさか、そのようなことを・・・。」

 算数大先生がおどろいて言うと、王女さまは、

「言っても言わなくても、言ったものとして考えるのが、算数の勉強なのです。わたしに脱線されたくなかったら、一本5センチの長さの一口ようかんを、同じ大きさに5つに切るものとして、お答えなさい。」

 と、いばって命令しました。

「それは、考えるまでもなく、一切れのようかんの幅は、1センチでございます。」

「ブッ、ブー。」

「えっ、長さ5センチのものを5分の1にすれば、一切れの幅は、1センチにしかなりようがないではございませんか、王女さま。」

 算数大先生が、おどろいて言いました。

「あら、長さを切ったら幅になってしまうだなんて、だめに決まってるわ。」

「そうでございますか。たった1センチしかない一切れのようかんを見て、私には『長さ1センチのようかんでございます』などとは、とても言えませんが、それでお勉強が先に進むのでしたら、そういうことにいたしましょう。」

 算数大先生は、しかたなく、王女さまの言いなりになることにしました。

「それなら、けっこう。

 一本5センチの長さの一口ようかんを5分の1にしたら、一切れの長さは1センチになりました。

 5分の1のようかんを二つ合わせると、長さは何センチになるでしょうか。

 はい、先生。」

 王女さまは、先生をあてました。

「幅1センチのようかんを、二つ合わせましたら、その幅は2センチに決まっております。」

 と、算数大先生は言いました。

「あら、そうかしら?」

 王女さまは、首をかしげました。

「ようかんの包みをひらいて、1センチの幅にナイフで切って、これをお皿の上に並べるときは、上向きかもしれないし、下向きかもしれないし、もしかしたら、横向きかも、縦向きかもしれないから、ふた切れ並べたら、長さは2センチになるとは、かぎらないわ。」

 すると、算数大先生は、にっこり笑って言いました。

「王女さま、包みから取り出したようかんは、表面が美しく光り輝いていますから、これを刃物で切りますと、どこが切り口なのかがすぐに分かります。ですから、ようかんを切った後、人は、自然に、包みの中にあったときと同じ向きに、お皿の上に並べるものでございます。切り口があっちを向いたりこっちを向いたりすることは、ありえません。」

「まあ、にくらしい、へりくつね。」

「えっ、何でございますか。」

「ああ、何でもない、何でもない。

 それでは、長さ5センチの一口ようかんの5分の1を二切れ並べたら、長さは2センチになるとしましょう。」

 すると、算数大先生が、えんりょがちに言いました。

「王女さまのおことばに、口をはさむようでございますが・・・。」

「あら、はさんでるわね。わたしは、じゃまをされることが、きらいなの。」

 王女さまは、むっとした顔を見せて言いました。

「恐れ入ります。けれども、幅1センチのものを二つ並べたら、その幅は必ず2センチになるのでございますから、『幅2センチになるとしましょう』は、正しい言い方ではないのでございます。」

「いいのっ。おいしい岩谷堂のようかんを食べさせてくれない人へのあてつけで、わたしはずっと、『あるとしましょう』で考えることにしたの。

 では、三切れ並べたとしたら、何センチになるでしょうか。

 はい、先生、お答えなさい。」

3センチでございます。」

「あたり。

 それでは、四切れ並べたとしたら、何センチになるでしょうか。」

「4センチに決まっております。」

「それも、あたり。

 それでは、5分の1に切ったようかんを、五切れ並べたとしたら、何センチになるでしょうか」

5センチでございます。」

「では、六切れ並べたとしたら、何センチになるでしょうか。」

「王女さま・・・。」

「何です。答えがわからないのですか。」

 王女さまは、きびしい声になって言いました。

5分の1のようかんは、五切れしかございませんから、六切れ並べることは、申しわけございませんが、私には、できません。」

「それなら、わたしがやってあげましょう。」

 王女さまは、手を伸ばして、ようかんを指でつまもうとしました。

「あら、六切れ目は、ないわね。先生、食べたのですか。」

「とんでもございません。5分の1のようかんは、もともと五切れしかないのでございます。」

「ああ、そう。

 それなら、きょうのお勉強は、これでおしまいね。

 先生、もうお帰りになってもいいわ。」

「しかし、王女さま・・・。」

 算数大先生が、また、口をはさみました。

「一口ようかんというものは、一本だけではなく、このように何本も箱の中につめてあるのが、普通でございますから、5分の6が必要なら、もう一本、ようかんをお切りになれば、問題は解決でございます。」


3.png

 

「あら、そう。先生というものは、よけいなことを考えつくものね。でも、しかたがないわ。ようかんをもう一本、5分の1ずつに、お切りなさい。」

「はい、切ったといたしましょう。」

 算数大先生は、いたずらそうに、にっこり笑って言いました。

「分かったわ。

 ここにあるとする岩谷堂の、長さ5センチあるとする一口ようかんを、5分の1に切ったとすると、一切れの幅は1センチになりました。これを五切れ並べるとすると、もとの5センチになります。

 それだけでは足りないから、もう一切れほしいと思ったら、長さ5センチの一口ようかんをもう一本、箱から取り出して、包みを開いてまた5分の1ずつに切ります。そして、その中の一切れを、さっきの5分の5のとなりに置いたとすると、ええと・・・これで5分のいくつになったのかしら・・・。」

 王女さまは、ちょっと首をかしげて考えました。

「王女さま、ひょっといたしましたら、5分の6にでも、なったのでございましょうか。」

 算数大先生が、助け舟を出しました。

「ひょっとしたら、きっと、そうかもね。では、5分の6ということにしておきましょう。」

 王女さまは、自信なさそうに言いました。

「ところで、王女さま、『5分の1』や『5分の6』は、数字で書けば、いったいどのように書くのでございましょうか。」

「えっ。5分の1は『5分の1』、5分の6は『5分の6』と書けばいいのじゃないのかしら・・・。」

 王女さまは、とつぜん算数大先生に質問されて、どぎまぎしてしまいました。

「それでは、王女さま、『5分の5足す5分の1は5分の6』は、紙の上にはどのようにお書きになるのでございましょうか。」

「ざんねんでした。ここには紙も鉛筆もないから、書けないわ。」

 王女さまは、突然、うきうきした気分になって言いました。

 ところが算数大先生は、ふところから、ぱっと計算用紙を取り出して言いました。

「ご心配にはおよびません。ささ、これにどうぞ。」


4.png

「まあ、よけいなことを・・・。」

「えっ、何とおっしゃいましたか。」

「まあ、よい計算用紙ね、と言ったのよ。」

 王女さまは、しかたがないので、鉛筆で、さらさらっと書きました。


5.png

 

「ありがとうございます、王女さま。

 ものはついでと申しますから、『5分の6足す5分の1』の式と答えもお書きいただきましょう。」

 算数大先生は、また、ふところから、ぱっと計算用紙を取り出しました。

「おやすいご用よ。」

 おうじょさまは、また、さらさらっと書きました。


6.png

 

「お答えもどうぞ。」

「おやすいご用よ。」

 王女さまは、答えをさらさらっと書こうとしましたが、

「あらっ。」

 と、困ってしまいました。これでは、どの数字とどの数字を足せばよいのか、少しもわかりません。

 けれども、頭のよい王女さまのことですから、すぐによいことを思いつきました。

「先生、わたしは少し、ど忘れしたから、『23足す6は』をその下に書いてくださいな。」

「こうでございましょうか。」


7.png 

 

 算数大先生は、さらさらと書きました。そして、たずねました。

「王女さま、お答えは、何と書きましょうか。」

「あら、答えは簡単。29よ。先生には、むずかしすぎたのですか。」

「まあ、そのようなもので、ございます。」

 先生は、王女さまのことばに特にさからわずに、「23+6=」のとなりに、29と書きました。

 

8.png

 

 「それなら、王女さま、『5分の5足す5分の1は』は、このように書けばよろしいのでございましょうか。」

 算数大先生は、ふところからまた新しい計算用紙を取り出すと、さらさらっと書きました。


9.png 

 

「パチパチ、上出来、上出来。さあ、お答えもお書きなさい。」

 王女さまは、算数大先生に、一気に答えまで書かせてしまおう、と考えて、先生を大げさにほめたたえました。算数大先生も、うっかりいい気分になって、『5分の5+5分の1=5分の6』と、答えまで書いてしまいました。

 

10.png

 

「そうれ、めでたい、めでたい、大先生。めでたいついでに、『5分の6』に、もうひとつ『5分の1』を足しちゃいましょう。そうれ、そうれ、がんばれ、大先生、『5分の6+5分の1』は、いくつになるか。」

 わがまま王女さまは、手を打ってはやしたてました。

 算数大先生は、もう、にこにこ顔で、またまた新しい計算用紙をふところから、ぱっと取り出して、式と答えを、さらさらっと書きました。

 

11.png

 

「それができたら、大先生、ついでに引き算もやっちゃいましょう。

 ここに、おいしい岩谷堂の一口ようかんが5分の7本あるとしましょう。5分の7本とは、つまり一口ようかん一本と5分の2本のことです。

 先生をたずねてきた7人の算数ずきのお客さまのために、先生が5分の7本の一口ようかんを用意したとしましょう。7人のお客さまのうち、4人は大よろこびで、幅1センチの小さな一口ようかんを、ぱっくりと一口で食べてしまいましたが、ほかの何人かは、この国の王女さまよりずっとずっとわがままで、『あら、わたし、お抹茶もいただかずに、あまい、あまいようかんを、それだけで、めしあがれ、と言われても、とても食べる気しないわ』と言って、食べようとしませんでした。

 さて、問題です。せっかく用意したのにお客に食べられずに、残ってしまった一口ようかんは、何分の何本でしょうか。式と答えを書きなさい。

 そうれ、がんばれ、この国一番の算数大先生。」

 算数大先生は、またまた、わがまま王女さまの声援につられて、ぱぱっと、式と答えを書いてしまいました。ところが、


12.png 

 ここまで書いたら、わがまま王女さまが、大声で言いました。

「あ、待って。その先は、書いちゃだめ。

 それは、先生、あなたの宿題としましょう。

 あしたの朝、宿題を持って来なかったら、先生、あなたは、水の入ったばけつを両手に持って、頭の上には、元気のいいトラねこを乗せ、廊下に立ってるだけじゃ手ぬるいから、お城の門から中庭をぬけて、たくさんの石段を登り、ええと、それから、お城の塔から塔へと渡り廊下を渡り、それでもまだまだ足りないから、でんでん太鼓を両手に持って走り回っている大勢の子どもたちのそばを通り抜けて、ええと、それから、ええと・・・。」

 そんなことを言っているうちに、王女さまは、自分がなぜそんなことを、つぎからつぎへと考えついて言っているのか、わからなくなってしまって、ええと、それで、ことばもつっかえて、そして、とうとう、

「だから、起立、気をつけ、礼。

 先生、みなさん、さようなら。」

 と、言ってしまいました。

 ちょうど、そのとき、カラン、カランと、鐘が鳴りました。

 みなさん、では、来週まで。さようなら。

 つづく


「車持皇子さん、あなた、『唐土にも筑紫の国にも行かなかった』ですって? でも、船に乗って出かけたんでしょ? それも、うそだったの?」

 わがまま王女さまは、まるでキツネかタヌキにでもつままれたような気持ちでたずねました。すると、車持皇子は、こう言うのでした。

「船には乗ったなり。どうしてかというと、皆(みな)が港まで見送りに来てしまったので、乗らないわけにはいかなかったなり。」

「そりゃあ、そうでしょう。それで、どうしたの?」

「御見送りの人々帰りぬ。」

「え? やっぱり、あなたの方言、わからないわ。『帰りぬ』というのは、『帰った』という意味なの? それとも、『帰らなかった』という意味なの?」

「何度も言うように、これは、方言ではなくて、千年の昔のことばなり。それに、やたらに『方言』、『方言』と、悪く言っては、国中の皆さんに失礼なり。」

「わかった。もう、悪く言わない。『ぬ』の意味を教えてちょうだい。」

「ほんとうに何かをしたときには『ぬ』と言い、しなかったときには『ず』と言うなり。」

 王女さまは、「なるほど」と思いました。

「『おうちに帰らず』は、おうちに『帰らない』、『帰らなかった』。

 『船に乗らず』は、船に『乗らない』、『乗らなかった』。

 『いやだと言わず』は、いやだと『言わない』、『言わなかった』。

 『帰りぬ』は、『帰った』、『帰ってしまった』。

 『乗りぬ』は、『乗った』、『乗ってしまった』。

 『言いぬ』は、『言った』、『言ってしまった』。

 というわけね。」

 王女さまは、「王女さま、おみごと、おみごと」という声を期待しましたが、車持皇子は、首をかしげて言いました。

「最後の『言いぬ』は、あんまり聞いたことがないなり。そのときには、『言いたり』とか『言いてけり』とか『申したり』などと言うのかもしれないなり。」

「つまり、全部、必ず同じじゃなくて、別の言い方をするものも、たまにはあるということなのね。

 とにかく、みんなは、船が出発したから、安心して『帰りぬ』しちゃった。その後、あなたは、どうしたの?」

「三日ばかりありて、こぎ帰りぬ。」

「たった三日で、船をこいで帰ってきちゃったの?  それじゃあ、唐土はもちろん、筑紫国にさえも、行けないわ。」

「もちろん、行けないなり。我は、秘密の場所に、たやすく人寄り来まじき家を作りてかくれていたるなり。」

「かくれていただけじゃあ、かぐや姫さまに言われた銀の根、黄金の茎を持つ木になっている白玉の枝を折って来ることなんか、できないわね。」

「ここに名人の鍛冶(かじ)、匠(たくみ)、つまり、かじ屋さんと大工さん、六人を召し取りて、かまどを三重にしこめて、玉の枝を作りけり。かぐや姫のたまふやうに・・・。」

「ちょっと、待って。『ノタマフヤウニ』って、何のこと?」

「『ノタマフヤウニ』ではなくて、『のたもうように』と読むなり。つまり、かぐや姫さまが、『おっしゃるように』のことなり。」

「わかった。先をお続けなさい。」

「かぐや姫のたまふやうに、違わず(たがわず)作りいでつ。つまり、かぐや姫さまがおっしゃったとおりに、寸分違わず、まったく同じ形に作ったなり。」

「まっ。船に乗ってアリバイを作ったうえに、今度は、ニセモノ作りまでしたのね。それを持って、はい、どうぞって言ったの? あなたのことだから、また、わざわざ港まで行って、疲れたふりをして、船でもどってきました、というふうに見せかけたんでしょう。」

「そのとおりなり。いとかしこくたばかりて・・・。」

「え? 『糸をかしこく、タバコを吸って』?」

「そうじゃないなり。『いとかしこく』、つまり、とても上手に、たばかりて・・・。」

「えっ、たばかっちゃった! つまり、人をだますための計略をめぐらしたのね。それでどうしたの?」

「船に乗りて帰り来たりけり、と殿に告げやりて・・・。」

「ただいま船に乗って帰って来ました、とお使いを出して言わせたわけね。」

「そして、いといたく苦しがりたる様(さま)していたり。」

「まあ! ものすごく苦しくてたまらない、というふりをしていたら、どうなったの?」

「迎へに・・・今のことばで言えば、『迎え』に人、多く参りたり。玉の枝をば、長びつに入れて、物おおひて持ちて参る。」

「白玉くっつけた木の枝を箱に入れて、すばらしい布を上からかけて、持って行ったのね。でも、あなたがいつも着ている皇子さまのお着物では、とても百千万里も船に乗って旅してきたとは、だれも思わないわよ。」

「だから、我は、旅の姿ながら参りたり。」

「なにっ。旅のかっこうをして、竹取の翁さんと媼さんをだまそうとしたのね。」

「そうなり。翁に、『命をすてて、かの玉の枝、持ちて来たる。かぐや姫に見せ奉り給へ(たてまつりたまえ)』と申しけり。」

「昔の人は、そういうときは、いつでも和歌を書いた紙をそえておいたんでしょ。何て書いたの?」

 

          いたづらに 身(み)は なしつとも

          玉の枝(え)を 手折らで(たおらで) ただに

          帰らざらまし

 

 わがまま王女さまが和歌の意味をたずねると、車持皇子は、こう説明しました。

「『いたづらに、身は、なしつとも』は、私の体は、『いたずら』、つまり、あちこちけがしたりして、とてもつらかったけれども、『玉の枝を手折らで、ただに帰らざらまし』、つまり、白玉がなっている木の枝を折らずに、ただそのまま帰ってくるものですか、と書いたなり。」

「竹取のおじいさまは、それで、だまされてくださったの?」

「ポン。」

「ポンとは、胸をたたく音。つまり、うまく行ったわけね。」

「そうなり。竹取の翁、中に走り入りて、『この皇子に申し給ひし蓬莱(ほうらい)の玉の枝(え)を、ひとつのところ、あやまたず、持ておはしませり。何をもちて、とかく申すべき。はや、この皇子に会ひ、つこうまつり給へ』と、かぐや姫に申し上げけり。ところが、かぐや姫は、ものも言はで、ほほづえをつきて、いみじう嘆かしげに思ひたり。」

 つまり、竹取の翁はたいへん喜んで、「さあさ、かぐや姫や。車持皇子さまに、蓬莱山に行って取って来てくださいとお前が言った、あの白玉の枝を、皇子さまはちゃんと取って来てくださったよ。もう、むずかしいことを言わずに、車持皇子さまに会ってさしあげなさい」とかぐや姫に言ったけれども、かぐや姫は、「ああ、嘆かわしいことだ」という様子で、ふみ机に向かって座って、手をほほにあてて考えごとをしていらっしゃった、というのです。

「そりゃあ、そうでしょう。」

 と、王女さまは思いました。

「それで、あなたは、気の毒になって、えんりょして、そっと帰ったの?」

『もちろん、そんなことはしないなり。『今さへ何かと言ふべからず』、つまり、今さら、何をおっしゃるのですか、『と言ふままに、縁に、はひのぼりたり』。つまり、そう言って、そのままかぐや姫がいる部屋の外の縁側に、はいのぼって行ったんだよ。』

「何とずうずうしい。」

「ところが、そのとき・・・。」

「そうよ、悪いことをすると、必ずじゃまが入るものなのよ。だれかがやって来たの?」

「竹取の翁、我にたずねたり。『いかなるところにか、この木は、さぶらひけむ』と。」

「おじいさまは、この白玉の木は、どんなところに生えていたのか、と聞かれたわけね。それで、あなた、何て答えたの?」

 王女さまが、そうたずねたときでした。突然、あたりが真っ暗になって、車持皇子の姿は、かき消すように消えてしまいました。

 「あら、車持皇子さんは、どこへ行ってしまったのかしら」と思っていると、突然、遠くに稲妻が走り、激しい雷鳴がとどろきました。あっと思う間に、稲妻も雷鳴もすぐ頭の上までやってきて、黒雲が、頭の上に攻め寄せて来たり、走り去ったりしました。

 

「はて、何事にてや、ありけむ」と王女さまが思っていると、稲光の中に、強そうな大人の男たちが六人ばかり、怒りの形相ものすごく、こちらに向かってやって来るのが見えました。

 中のひとりが、細い竹の先に手紙をはさんで差し出しながら、「わがまま王女に、もの申す」と大声で言いました。そこで王女さまは、六人の男たちの言い分を聞くことにしました。

「まず、あなたたちは、いったい誰なのか、そして、何を言いたいのかをお話しなさい。」

「我らは、王宮の大工たちなり。我らの棟梁(とうりょう)、漢部内麻呂(あやべの うちまろ)さまが、『玉の木を作りつかうまつれ』、つまり白玉の木を作れとおっしゃったので、内麻呂さまがおっしゃるとおりに、『五穀(ごこく)を断ちて、千余日(せんよにち)に力を尽くしたること少なからず。しかるに禄(ろく)いまだ給はらず』なのです。」

「うーん、ちょっとごめんなさい。はじめのほうは、分かったけれど、『五穀を断ちて』から後がわからないわ。わたしに何かしてほしいのなら、わたしに分かるように言ってちょうだい。」

 王女さまがそう言うと、実はこうなのだ、と六人の男たちは説明しました。

「車持皇子さまが、我らの棟梁、内麻呂さまに、白玉の木を作れとおっしゃったので、我らは、内麻呂さまのお指図で、五穀を断って・・・。」

「ああ、ちょっとごめんなさい。その『五穀を断って』というのは、何のこと?」

「五穀とは、米、麦、ひえ、あわなど、五つの穀物のことなり。こういうものを一切食べませんから、どうぞ、すばらしい仕事ができるように、我らを守ってください、と神々に祈ることなり。」

「わかったわ。それで、どうしたの?」

「内麻呂さまのお指図で、五穀を断って、千日余りもの日数をかけて、さまざまな努力をして最高のものを作ったのに、いまだ禄(ろく)を給わらず、なのです。」

 神に誓いを立ててまで、努力して白玉の枝を作ったのに、車持の皇子はまだその代金を払ってくれていない、というわけなのです。

 話を聞いて王女さまは、「なるほど」と思いました。

「では、その手紙にそのことが書いてあるわけね。でも、竹の先を割って、そこに大事な手紙がはさんであるのは、どういうわけなの?」

「どういうわけって、これが、大事な訴えを起こすときのやり方なり。」

「あ、そう。では、拝見するわね。」

 わがまま王女さまが細竹の先から手紙を抜き取って広げてみると、こう書かれていました。

 

「皇子の君、千日いやしき工匠らともろともに同じ所に隱れゐたまひて、かしこき玉の枝作らせ給ひて、官も給はんとおほせ給ひき。これをこのごろ案ずるに、『御つかひとおはしますべきかぐや姫の要じ給ふべきなりけり』と、うけたまはりて、この宮より給はらん」

 

「えー、なに、なに。『皇子の君は、千日間、身分の低い我々が寝起きして働いている、その同じ場所に、ずっと隠れておいでになりました。そして、我々が、すばらしい玉の枝を作れば、お代金だけではなくて、その上に、お前たちの位も高くしてやろう、とおっしゃった。まだその約束を果たしてもらっていないけれど、これはみな、かぐや姫さまのご注文で始まったことだから、お代金はかぐや姫さまからいただくのがよい、と言われたので、こうやって押しかけてきたのです』ですって?

 まあ、それでは、安心して、かぐや姫さまのところにおいでなさい。きっとあなたたちが納得行くように解決してくださるわよ。」

 王女さまのことばに、みんなは満足して引き上げて行きました。

 

「先生、今度は右大臣安倍御主人(あべの みむらじ)を呼び出してくださいな。」

 王女さまは、国語大先生にさいそくしました。

「かしこまって、ござるなり。今すぐに呼び寄せるなり。右大臣安倍のみむらじ、出て来いなり、出て来いなり。ナムナム、カラカラ、かぼちゃの種、メロンの皮、かんぴょう、ひじきに、干し大根。なむからやんの、からからとう!

 国語大先生が祈ると、また、ざわざわっと雨が降り、稲妻と雷鳴があたりに満ちあふれました。

「やや、何といふことなり。あやしきことかな」と王女さまが驚いていると、ふしぎな身なりの男がひとり、現れました。三人目に現れた貴公子なら、右大臣安倍御主人(あべの みむらじ)にちがいありません。早速王女さまは、きびしい声でたずねました。

「あなた、名は何というの? 安倍御主人ね。そうでしょ?」

 ところが、ちがうと言うのです。

「安倍御主人などという人物は、我が国には、いないなり。もしかしたら、海の向こうの、大和の国になら、そんな変わった名の人物が、いるかもしれないなり。」

 と言うではありませんか。そこで王女さまは、何か、頭に浮かんできた、どこかよその国のことばでたずねてみました。

What's your name?

 すると、返事は、こうでした。

「まるで名前か何かを聞かれているようなれど、我は、米国の人にあらねば、何を聞かれているのか、意味が、さっぱりわからないなり。」

 そこで、王女さまは質問を変えてみました。

How old are you?

「年を聞かれているようなれど、我は英国の人でもなければ、何と聞かれているのか、とんと、見当のつけようもない、なり。」

 そこで、もう一度、またちがう質問をしてみました。

Where do you come from?

「はて、いずこの者かと聞かれているようなれど、我はオーストラリヤ人でもなけれは、やっぱり、見当さえもつかないなり。」

 王女さまは、いいかげん、いらいらしてきました。

「それじゃあ、あなた、なに人よ?」

「我、唐人(からびと)なり。」

「まあ、中国の人なの。お名前は? お仕事は?」

「名は、王卿(おうけい)。唐の国の貿易船の持ち主なり。」

「分かった。あなた、右大臣安倍御主人に頼まれて、火鼠の皮衣(ひねずみのかわごろも)を取りに行くために、船に乗せてあげたのね。」

「半分『Yes!』で、半分『No!』なり。」

「どこが Yes で、どこがNo なの?」

 王女さまがたずねると、王卿は、歌で答えました。

 

Oh, yes!  Oh, no!

Oh, no!  Oh, yes!

何が Yes で、何が No

『右大臣安倍御主人に頼まれて』は、『No!

『だれだれさんに頼まれて』は、『Yes!

『火鼠の皮衣』も、『Yes!

『取りに行くために』は、『No!

『船に乗せてあげた』は、とんでもない、ない

絶対『No!』なり。

 

「これじゃ、頭の中は、めちゃくちゃだわ。

 唐の王卿さんにたずねますけど、『だれだれさんに頼まれて』が『Yes!』で、『右大臣安倍御主人に頼まれて』が『No!』だったら、だれがあなたに頼んだの?」

 王女さまがたずねると、頼んだのは右大臣安倍御主人の家来だった、という返事です。

「なんだ、それなら、右大臣に頼まれたと同じじゃない。まあ、いいわ。安倍御主人の家来が、唐の国までやってきて、あなたに火鼠の衣があるところまで連れて行ってほしい、と頼んだわけね。」

「連れて行ってほしい、とは頼まなかった。どこかへ行って、火鼠の皮衣を買ってきて、大和の国まで送ってほしいと頼んだなり。」

 これを聞いて、王女さまは、むっとしました。

「むっ。やっぱり、いいかげんな方法で手に入れようとしたわけね。それであなた、火鼠の皮衣を手に入れて送ってあげたの?」

「そんなことは・・・、ええと・・・、しなかったと思うような、気がするなり・・・。」

「そんなものは、そもそも無い、と返事したわけね。正直に?」

「うーん、たしか、そうだったと思うなり。」

 

 すると、そのとき、あたり一面に稲妻が走り、雷鳴がとどろきました。稲光の中を、怒りの形相もものすごく、ふたりの人物が走ってくるのが見えました。

「あなたがたは、いったい、どなたなり!

 わがまま王女さまは、ふたりに向かって、大声でたずねました。すると、ふたりは、嵐の中を声をふりしぼって言いました。

「我は、右大臣安倍御主人なり。」

「そして我は、家来の小野房守なり。」

 これを聞くと、唐土の貿易商人、王卿は、顔色を変えて逃げて行ってしまいました。

 これに気が付いて後を追いかけようとする右大臣安倍御主人と家来の小野房守を、わがまま王女さまが呼び止めました。

「ああ、もしもし、安倍の右大臣さんとご家来の小野さん、そんなに恐そうな顔をして、どうなさったの?」

「我ら、あの男にだまされたるなり。」

「それじゃあ、王卿さんは、あなたの頼みを引き受けておきながら、火鼠の皮衣を見つけることができなくて、何も送って来なかった。」

「送っては来たなり。」

「それで、あなたは、皮衣をかぐや姫さまのところに持って行ったの?」

「そのとおりなり。ところが、かぐや姫は、思いがけぬことを、言ったなり。」

「何て言ったの?」

「かぐや姫は、この皮衣は、火に焼かむ。焼けずばこそ、まことならめ、と思ひて、人の言ふことにも、負けめ。これを焼きて試みむ。」

「なるほど。かぐや姫さまは、本物の火鼠の皮衣かどうか、火に入れて試してみよう、もし焼けなければ、本物だと思って、あなたのことばに負けて、仕方なくあなたをわたしのお婿さまにしましょう、と言ったわけね。かわいそうじゃないの。あなた、自分が右大臣だから、いやがるかぐや姫さまを無理にお嫁にしようとしたりして。」

 こんな話をしているうちに、右大臣安倍御主人の胸のあたりに、めらめらっと、炎が燃え上がり始めました。炎は、たちまち大きな火となって、安倍御主人の体を包みました。右大臣は、火に焼かれながら、じっとうなだれたまま、立っています。

「御主人さん、あなた、火に焼かれて、熱くないの?」

「これはわたしの心の、うらみの火なので、どんなに焼かれても、我が身は冷たく、こごえるばかりなり。うらめしやー。」

 と言うと、すーっと、姿を消してしまいました。そばにいた家来の小野房守もいっしょに、すーっと消えて行きました。

 

「王女さま、王女さま。お茶のお時間でございますよ。」

 王女さまが、はっと我にかえると、王女さまの目の前には、おいしそうなお菓子とお茶が置かれていました。そして、そばに小間使いが立っていました。

「まあ、小間使いさん。あなたは、だれなの?」

「だれなのって、王女さまは、わたしをお見忘れなのですか。それともわたしが、だれか別の人に見えるのですか。」

 小間使いがたずねました。

 王女さまは、ちょっと考えて、小間使いにたずねました。

「もしかしたら、あなた、かぐや姫? それとも、かぐや姫さまのお付きの官女?」

「何をおっしゃいますやら。さあさ、お茶を召し上がったら、宿題ですよ。きょうは国語のお勉強でしたが、王女さまが途中でねむっておしまいになったので、国語大先生はしかたなく、宿題を置いてお帰りになりました。お茶のあとで宿題をなさったら、わたしが先生のおたくにお届けすることになっています。」

「ふーん。うそじゃないでしょうね。」

「宿題なんか、うそであってほしい、と思う心が、これはうそだと思わせるのでしょう。でも、王女さま、この宿題の中に出てくる五人の皇子たち、みんな正直な人たちばかりなんですね。正直だからいっしょうけんめい、たいへんな骨折りをして、それが全部うそになってしまって、けっきょく千年経っても、まだうそつきだと思われて、お気の毒だと思います。」

「あら、そうなの? そう言えば、そうね。相手が、ぜったいにお嫁さんになんかなれないかぐや姫でなかったら、解けるはずのない問題なんか、出されるわけなかったんだものね。

 そうね。それなら、お茶が終わったら、すぐに宿題をやって、五人の皇子たちを安心させてあげましょう。」

 王女さまは、おいしいお菓子と、おいしいお茶を、心行くまで楽しんで、いい気分で宿題を終わらせました。

 

 起立、気をつけ、礼。

 先生、王女さま、みなさん、さようなら。

 来週は、また、算数大先生の勉強にもどりましょう。

 臨時増刊号は、これでおしまい。